ワン・バトル・アフター・アナザー/ONE BATTLE AFTER ANOTHER

私は今、仕事が繁忙期で死ぬほど忙しい。

朝早く起きてはゾンビのように出社し、週初めはまだ元気なものの、毎日遅くまで働き、遅くに帰ってご飯を食べて、風呂に入るなど必要最低限のことをして、ただ寝る生活。

日々5時間程度しか睡眠できず、それでもまた会社に向かう生活。

特に金曜日にはフラフラで昼間は眠気と闘いながら過ごし、眠気を乗り切ったあとに、また遅くまで働き通すという日々を送っている。

週末は何もやる気力が起きず、土曜日はとにかく寝て過ごす。

日曜日はまた月曜から始まる味気のない日々に備え、心と体を整える。

永遠には続かないが、どこに辿り着くかもしれないような毎日が今日も続いて行く。

ただ、そんな毎日に時々抗いたくなり、急に午後休をとり、全ての仕事の連絡を遮断、全ての仕事をぶん投げたくなる時がある。

今回、ワン・バトル・アフター・アナザーを観に行ったのも、そんな気持ちからだった。

映画は別になんでも良くて、とにかく日中の連絡を全てすっ飛ばしてやろうと考えた。

チャットも電話も全てオフ。心を空っぽにしてこの映画を楽しみたいと思った。

もちろん、この映画の予告も観ていたし、ディカプリオやショーン・ペンが出ることも知っていたが、

どんな映画なのかの事前情報はほとんどなく映画を鑑賞することになった。しかも封切り日に。

私はディカプリオがけっこう好きで、彼の出る映画はけっこう映画館で観ている。ディカプリオは映画を選ぶセンスがとても良いと思う。

そして毎回、何かしらの新しいキャラクターを演じている。

昔は2枚目キャラだったのに、最近はぶっ飛んだキャラクターから、心の弱い役、脛に傷持つシリアスなキャラクターなど演じ分けていて、魅入ってしまう。

そして、今回監督は自分の中では奇才である、ポール・トーマス・アンダーソン。

上映時間が3時間弱ではあるが、これはぜひ劇場で観てみたいと思ったのだった。

なお上映時間が長いと、年々近くなっていくトイレが心配になる。

しかし、今回私が観に行った初日は、なんとまわりが年配の方ばかりで、トイレに立つ人が非常にお多かった。みんな同じ悩みをかかえているようだ。

さて、映画についてだが大傑作であった。長い上映時間を全く感じさせないテンポの良い映画だった。

この映画はまず最初の30分くらいは、一体何がテーマの映画なのかが分からないまま進行して行く。

でも幸い私は、前段のとおり金曜日で仕事にやられて頭も働かないので、ただ頭を空っぽにして物語を見ていくだけだったのでちょうどよかった。

派手な展開でただただあっけにとられていく。

そして、怒涛のプロローグが終わった後に、この映画が一体何がテーマの映画なのかがはっきりしていく。

ディカプリオ演じる元革命家のボブが、ショーン・ペンらに攫われた娘を取り戻すために奔走する。

ボブは、昔は革命家として尊敬されるほどの伝説の男であったが、内実は同じく革命家のテヤナ・タイラー演じる奥さんの影響を受けて、若気の至りで革命活動を行なっていただけであり、今やかつての過去の過ちに怯える冴えない被害妄想気味のおじさんに成り下がってしまった。

そんな冴えないおじさんが、娘を取り戻すために、昔のようにはいかない身体に鞭打って頑張るのだ。そして心も常に弱気で見ていて情けない。

一方で、ボブの娘は、追っ手に追われて捕まったとしても気丈に振る舞い、殺されそうになっても決して諦めない。はっきり言ってボブには期待できないので、娘の方を応援してしまった。

そして、ショーン・ペン演じる悪役ロックジョーのキモさも際立つ。悪い考えを持って悪いことをなしとげようとしているので、どこか笑えるような所作。

ショーン・ペンの演技力は流石だなと思ってしまった。ショーン・ペンは普通に演技をさせればめちゃくちゃかっこいいのにもったいない!

この映画が大傑作と感じた理由は、主人公が全く何もしていないのにストーリーがテンポよく進むところ。そして合間合間に素晴らしいギャグパートがあるのだが、シリアスなところの緩急が秀逸である点。この緩急によって全く飽きることなく物語に引き寄せられていく。

そして、言ってしまえば、登場人物も映画の中でどんどん使い捨てられていく。主要な人物以外は、その後にどうなったのかなんて気にする必要はない。物語はただボブとボブの娘の顛末のために進められていく。

そして、ジョニー・グリーンウッドの劇伴も素晴らしい。耳馴染みのない旋律が展開を盛り上げていく。違和感を感じさせながらも全て観終わった後にこの音楽がなければこの映画は成立しなかったのだということに思い至るのだ。

主人公ボブはオロオロして悪態ばっかり、時には泣きべそかきながら、どうしようもない人間である。そんなボブが娘のために、頑張る姿を笑いながら見届けるのが良い。

親がどうしようもない人間であっても、子供はちゃんと育っていく、そして家族は成り立つのだということがこの映画のテーマなんだと最後に思えた。実は感動する映画だった。

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